大隅半島の照葉樹林『金弦の森』を行く(本編)


10月8日から3日間ほど、いくつかの用事で鹿児島に滞在した。
年に2度ほどのペースで訪れる鹿児島では空港が霧島に近いこともあって、東京への帰りの前には近辺の山に登ったり、温泉に入ったり、また屋久島に飛んだりと、せっかくの鹿児島を有意義に過ごしているが、今回はさてどこへいこうかと思っていたところに鹿屋のHさんから、
大隅半島の森を歩きましょう!一度大隅半島の森も見てもらいたいんです。」
というお誘いをいただいた。
実は大隅半島は何十年も昔に一度、霧島からバスに乗って佐多岬まで訪ねたことがあっただけで、道中の景色すら記憶になく、二つ返事で「行きます、行きます」とお願いをしてしまった。


東京を離れる前に伺ったところでは大隅半島は照葉樹の原生林に覆われた森があり、その中でも「金弦(かなづる)の森」に行きますよという事だった。
この森は原則として毎月第4日曜日に森をあるく「体感会」を行っていて、保護のために指定日以外は入山禁止となっているそうだ。
今回は特に許可をいただいて、地元大隅の森に詳しいM元さんが平日にもかかわらず案内をしてくださり、「アースディ―かのや」の方々と一緒に初秋の照葉樹の森歩きを楽しんだ。



さて、この「金弦(かなづる)の森」はいったいどの辺りにあるのか?
地名をきいても鹿児島にあまり詳しくない私にはまるで判らなかったが、鹿屋から肝付のほうへいったところと聞き、ようやく場所が自分でも特定できるようになった。


鹿屋から南東に、吾平(あいら)を経てさらに県道542号線を岸良方面に向かう。
途中、川上中学校、川上小学校があり、さらに進むと二股川キャンプ場という施設があるが、そのキャンプ場手前にある『金弦橋』が集合場所だ。
ここは県道の橋のたもとにちょっとした小さい駐車スペースがある。
なぜここかといえば、山中を登って降りるというコースではなく、ここに数台の車を置き、1,2台の車に全員で乗り込んで、さらに道路を上っていく二股川キャンプ場付近から、この体感コースに入るためだった。
ちょうど尾根と川の間を全般的にはくだりつつ進んで、最後はこの『金弦橋』に出て、ここにとめておいた車で、二股川キャンプ場前においた車をとりにいく。



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さっそくその駐車スペースにはこのような看板が取り付けられていた。
まずはしっかり読んで、この森を歩かせていただく。




車3台のうち1台を残し、2台に乗り込んで二股川キャンプ場の前まで到着。
コースは歩き方次第で所用時間が変わってしまうが、ほぼ2時間、写真を撮ったり昼食をとったりしながらゆっくりだと3〜4時間。
そこで先にトイレを済ませていくこととなるのだが、車をとめた二股川キャンプ場の施設まで2,3分歩いていくと、シーズンオフなのか
平日で利用者がいないためか、全ての施設は入り口に施錠されているか、また外部の公衆トイレ入り口には木の板が打ち付けてあった。
残念ながらそこを利用することができなかったので、訪れるときには季節により事前に考えておいたほうが良いかもしれない。



身支度を調え、M元さんにコースの簡単なブリーフィングをしていただき、準備運動。
天気予報では午前中は晴だというのに、鹿屋を出てからここまでの間は車のフロントガラスにポツポツ小粒の雨が落ちてきていた。
薄手のカッパを荷物の中に入れてはおいたが、足もとを考えると降って欲しくない....
そう思いつつ、自分が晴れ女だったことを思い出す。



まず、この体感コースの入り口にいく前に、そちらとは別の林道に少し足を踏み入れてみる。
ホトトギス」が咲いているらしい。




少しはいると一つ、あ、ここにも一つ。
どれどれと見ていくと、つい林道を奧深くに入っていってしまいそうだ。
人気の高い山野草らしく、本州ではみつけて根こそぎ採っていってしまう人がいると聞いていた。




一見、蘭の仲間かと思うような花だが、実はユリの仲間。
ホトトギス」は固有種が十数種あり、絶滅危惧種となっているものもある。
ごく普通の「ホトトギス」には茎に毛が生えているそうだが、生えていないものは「サツマホトトギス」と呼ばれているらしい。
写真ではわかりにくいが別アングルで撮った写真では毛が生えていたので、この花は普通のホトトギスでサツマホトトギスではなさそうだ。




さて、本来の照葉樹の森に進路をあらため、県道から細い林道を少し上ると、さっき夢中で探していた「ホトトギス」が、いやというほど道ばたに咲いていた。
途中で水音がしてくると、そこには人工的な堰から落ちる水だったが、水量が豊富で藪に囲まれ美しかった。




この滝をみて少しいけば、すぐ左手が照葉樹体感コースの入り口で、「指定日以外は入山禁止」と書かれたこの看板が目印となる。




さっそくまた、金弦橋のたもとにあったものと同じ看板をみかける。
このあともコースを歩いていると何カ所かでみかけたが、字は違うが全く同じ文面のもので、おそらくNPO(「NPO大隅照葉樹原生林の会」)の方々が手分けをして書いて取り付けたのだと思う。




そして木々の目立つものには、樹木の名前が記されたプレートをみることができる。
ヤブニッケイの幹は茶と緑の模様が美しい。




足もとは2日前の台風の影響で降った雨と、さらにおそらく夜半から朝にかけて降っていた雨のせいで、落ち葉が非常に滑りやすく、しかも急傾斜地を降りる時には、ふかふかした腐葉土で足が地に完全に着かないようで、そのままズルズルと滑りおちたりと、少々気をつけて歩かなければならない。
同じ腐葉土の多い山中でも、関東では土地がズルズル崩れるような感じはなく、あとで平地に戻ってみたところ、土がシューズの溝に詰まって滑り止めの訳を成さなくしていた。
これもこの近辺の土壌の特性かもしれない。
道といっても踏み分け道なので、場所によっては川に向かって崩れていたり、小さい沢の濡れた岩の上を歩くような場所では、ナイロンロープが張られていて、それにつかまることができて助かった。




照葉樹の森は屋久島の杉のような樹齢ではないにしても、十分に数百〜五百年の大木があり、その大きさが判るよう人物の入った写真を何枚か続けてあげてみる。
樹木の種類はスダシイ、タブ、イスノキなどがよく目につく。














コースは概ねくだりと思いきや、川に流れこむ小さい沢がところどころにあり、それを越えて歩くために、思ったよりもアップダウンがある。
こうしたわずかな流れが、いくつも川に流れ込み、徐々に水量を増していく。




途中でみつけた「ヤッコソウ」
普段はスダシイの木の根に寄生していて、花だけこうして土の上に顔を出すらしい。
これはまだ開いていないのでわかりにくいが、開くと奴サンが両手を開いたような形になるという。
(あとで調べたら、なんとラフレシアの仲間だというので驚いた。)






雨のあともあって、道中はキノコ類がよくみられたが、それはまた別のエントリーに掲載したいと思う。



コースも終盤に近くなったころ、川からザーザーという滝の音が聞こえてきた。
ここには渓流に「原生林の滝(仙人の滝)」と「金弦の滝(二段滝)」という2つの滝があるそうで、そのうちの「金弦の滝」に降りてみた。
どんどん下っていくと、なんと滝壺まで降りることができてしまう。



目の前に予想もしていなかった滝が現れるのはちょっとした感動だ。
しかもこの滝は良くみれば大きな岩盤から落ちている。
そのために滝の水も滝壺の水も濁りがなく、とても綺麗だった。
ちょっとみたところでは、深いところで水深2〜3mくらいあるのではないかと思う。
真夏の暑いとき、汗をかきながらここまでくれば、思わず飛び込んで泳いでしまいそうになる。


ここで少し遅めの昼食をとった。
お弁当は泊まった鹿屋の宿「太平温泉」の、しかもコースを同行して歩いていただいたA園さんにお願いして、つくっていただいた。
ゆっくり滝をみながら....のはずだったが、たまたま近くに巣があったのだろうか、大型の蜂が何匹も次々とでてきて、早々に片づけて退散するしかなかった。




滝下も岩盤や大きな岩が続き、再びもとの道にもどって、終点を目指す。
と? 数分歩いただけでいきなり見覚えのある場所にでた。
それが最初に車をおいた金弦橋だった。


あとはここで残しておいた1台の車にドライバー2人が乗り込み、二股川キャンプ場の前においた2台の車をとりにいき、最後にまた全員がここで合流してそれぞれの帰路についた。
私は一度荷物を預かっていただいている鹿屋市内の「太平温泉」まで戻り、そこで一風呂浴びて汗を流してから、この日の夕刻から用件がある鹿児島市内へ向かった。




NPO大隅照葉樹原生林の会』
この森は「NPO大隅照葉樹原生林の会」が地域の照葉樹原生林という貴重な財産を後世に残していくために、「照葉樹原生林のシンポジウム」を開催したりしながら保護活動をしている。
http://www11.ocn.ne.jp/~genkikaz/syouyouzyu/sub.htm



大隅の山々』
今回案内をしていただいた、M元さんのサイト。
金弦の森以外にも、錦江町のことや大隅半島の他の照葉樹の森の話題などが掲載されている。
http://island.geocities.jp/rjfjm705/index.html



『ホテル 太平温泉』
鹿屋で今回宿泊した宿。部屋の鍵をもっていくと併設の温泉に無料で入れる。
893-0062 鹿児島県鹿屋市新生町5-25
tel: 0994-44-3300
http://www.taihei-onsen.com/