『Romanée-Conti 1987』(ロマネコンティ)の余韻 その1


縁あって『Romanée-Conti 1987』(ロマネコンティ)を呑む機会に恵まれました。


この話があった時「さてどうしたものか?」と少々悩んだのですが、「これが最初で最後の機会かもしれない」と思った瞬間、向かうところは決まっていたような気がします。
おそらく私がまだ30代であれば、乗り気にはならなかったかもしれません。


きっと「どんな味だった?」「どうだった?」と聞かれるに違いありませんが、それはもう常套句で答えるには不可能というもの。
こんな例えで理解していただけないでしょうか。

理想の全てを兼ね備えた女性(あるいは男性)に出会った!
ただ、それは一夜限りの逢瀬。

さて、場所は東京會舘の2階フレンチレストラン「プルニエ」。
7人のワイン好きが集まりました。
スタート時刻より30分前にロビーに着けば、すでに2人が先着。
そこへシェフ・ソムリエの浜崎さんが降りてみえて、今日オーダーするワインの話などをちょっとしましたが、それは食前酒に勝るもの。
頭の中はすでにワインのことでいっぱいです。
その後、場所を移して2階「プルニエ」前のウエイティングへ。
自分を含め、とにかく日々忙しいメンバーと聞いていましたが、さすが全員がスタート時刻より早く集合完了です。


「プルニエ」では皇居のお堀が見える窓側の半個室。
少々高めのパーティションで仕切られた部屋ですが、お隣には誰もおらず、景色と部屋を独占したも同じです。
これで心おきなく、ワイン談義、そしてロマネコンティに感嘆の声をあげられるというもの。


まずはこのステキな日、ステキな集まりへの乾杯です。
シャンパンは『HENRIOT BLANC SOUVERAIN』(アンリオ ブラン・スーヴェラン)



コート・ド・ブラン産シャルドネで、上品なハチミツのようなほのかな甘い香り。
細かい泡をみていると、早くもこのシャンパンだけで酔いしれてしまいそうで、おもわず我に返るのでした。
すっきりとしているのに軽すぎないタイプで、アミューズ・グールにもよくあいました。




シャンパンの次にもう1本ロゼシャンパンを、という話もありましたが、この先の事を考えると、もう白ワインにいきましょう、ということに。


『Pouilly Fume Baron de L 2002』(ピイィ・フュメ バロン・ド・エル 2002)
ロワールの古い樹齢のソーヴィニヨン・ブランでできた、完熟果実のようなワイン。





前菜は伊勢海老と帆立をつかったサラダ仕立て。



伊勢海老の身の上にはキャビア、そして帆立の上にはイクラが彩りよく添えられています。
ただ、このイクラの部分を口にした時だけは、せっかくの 「Baron de L 」もいただけません。
キリっとした純米吟醸酒を飲みたいと思ってしまいました。




スープは冷房の効いた室内とはいえ、外からやってきた暑さもまだ残るので、冷製スープにしていただきました。
『アヴォカドとアセロラの冷製スープ』


黄緑色のアボガドのスープに真っ赤なアセロラジュレ
まるでバラの花のようです。




いよいよメインの御料理、ローストビーフ、そして赤ワインへと入っていきます。



(その2につづく)

『Romanée-Conti 1987』(ロマネコンティ)の余韻 その2


(その1からつづき)


ロマネコンティという超主役の登場を控え、さきに呑んだワインも控え気味。
いよいよメインの料理、ローストビーフのでてくる番です。
ただ、ここでロマネコンティの前の1本ということで、赤ワインを。


とはいえ、ロマネコンティとともに、同じテーブルで飲める赤ワインがあるでしょうか?
こうなればもう同じDRC(ドメーヌ・ド・ラ・ロマネコンティ)の、しかもモノポールワインか、またはおなじDRCのさらに古いヴィンテージでしか考えられません。
結局選んだのは、

『LA TÂCHE 1998』(ラ・ターシュ 1998)




このワインを抜栓するときには、シェフソムリエの浜崎さんが「若い者に勉強をさせてください」といって、もうひとりのソムリエを連れていらっしゃいました。
東京會舘といえど、DRCの、しかもモノポールのワインを開けることはそう日に何度もはないでしょう。
抜栓直後の香りを知ることができるのは、栓を抜いたソムリエだけ。
若い次の世代のソムリエにたくさんの味と香りの経験を積んでいただくのは、私たちが美味しくワインを味わうために、大事なこと。



グラスに注がれた時、すうーっと立ち上った香り。
さすがDRCの貫禄です。
しかし、1998年ということでさすがにまだ若い.....
さらに5年後、10年後が気になる、将来のある青年のようです。
肉料理が揃うまで、グラスの中、室温に近くなるまでゆっくりと味わい、
少しおいてからもまた、飲み比べてみることにしました。



次のロマネコンティを気にしつつも、ラ・ターシュを味わっていると、メインの御料理のローストビーフが大きな固まりのままワゴンに載ってやってきました。



どんなサーブの方法だろう、きっと固まりを目の前で切り分けてくれるのだろうとは予想していましたが、なんとプルニエの料理長自らがこの肉を切り分けしてくださいました。



東京會舘のローストビーフは美味しいという定評を聞いていました。
ですが、思っていた以上のすごいボリュームです。



全員の前にローストビーフが運ばれて、食べ出した頃、今度は肉の端の方の塩分の強い部分を切り分け、それがまたそれぞれのお皿に追加されました。
食べ比べです。
柔らかく、ふくよかな香りの肉は、あっという間になくなっていきます。




そしていよいよこの会のメインのキャスト、『Romanée-Conti 1987』(ロマネコンティ)の抜栓です。
シェフソムリエの浜崎さんがテイスティング
その瞬間の顔を皆が見つめます。
この緊張の瞬間。



 ..................



おそるおそる誰かが聞きました。


「どうです?大丈夫ですか?」


「大丈夫です。」



ヴィンテージワインは栓をあけるまで判らない、それがましてやようやく確保していた『Romanée-Conti 1987』この1本ですから、「大丈夫です」という言葉を聞いた途端、安堵とともに今度は自分のグラスに注がれるのが待ち遠しくなりました。



20余年の眠りを感じるコルク。
このコルクの香りだけでも十分に酔えそうです。



グラスに注がれた『Romanée-Conti 1987』。
色は明るく透明感に溢れています。
軽くグラスを揺すると、グラス周辺についた脚は見事に均一に、そして薄く、綺麗に落ちてきます。
こんなクリアな脚は今までみたことがありません。
これはもう、ただ呑むだけのワインではないなぁ..と実感してきました。



グラスに注いだ瞬間から、一気に香りたつ芳香にうっとり。
このときをずっとのボトルの中で待っていたのではないかと思うような香りの広がりです。
ほんのわずか口に含めば、とがりのない、丸い丸い、ひたすら丸い味わい。
実はロマネコンティはその有名さから、いかにも個性強い、そしてきつい濃縮されたような味わいのワインかと思って構えていたのですが、気張ることのない、なのに上品の極みのすばらしい味わい。
なるほど、これがロマネコンティだったのだと脳裏に焼き付く印象でした。




丸テーブルのあちこちから、「うーん」「おーっ」「はぁ〜」という言葉にならない声が聞こえてきます。




本当に少しずつ、この最高の逢瀬を楽しみましたが、いつの世にも「終わり」という言葉はなくなりません。
グラスの底にはほんのわずか、赤い溜まりがあるだけとなり、会も終焉。
ふっと、時間のたったグラスを持ち上げ、そこに残った最後の数滴を口に含むと、
「酸っぱい!」
思わず目尻に皺がはいってしまいほどの強い酸味。
20余年の年月を経た完熟のワインは、空気に触れることであっという間に酸化してしまうのでしょうか。
驚きです。
飲兵衛の習性が幸いしたのか、こんな発見もあったのでした。




最後にあっさりとシャーベットのデザートにコーヒーをいただき、この会はおわりました。




たしかロマネコンティを呑む会に参加するかどうか、それは「これが最初で最後の機会かもしれない」という気持ちがドンと背中をおしたはずなのですが、呑み終わってみれば「また次に機会があれば」という言葉が口をついてでる始末。
いったいいつのことになるのやもしれません、でも、人間は叶えたいと思う夢があるとたくさん長生きできるような気がしてきました。





ロマネ・コンティの歴史と蘊蓄はこのあたりが判りやすいでしょう。
http://www.suntory.co.jp/wine/winery/100/



『東京會舘 フランス料理 Prunier(プルニエ)』
http://www.kaikan.co.jp/r_b/prunier/index.html



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