『中国行きのスロウ・ボート』読了


村上春樹最初の短編集で、7編の短編が収められている。
短編集を読み終えて、その感想をといっても、難しい。
しかも2年間の間に執筆された短編だから、内容はバラエティーに富んでいる。


あるものは長編の小説のエッセンスが見え隠れし、あるものは逆にキーワードとなる言葉が必然のように飛び出す。
情景の切り取られた断片のようでもあり、かといえば小説のための精密部品のようでもある。


書籍タイトルを含む7編のうちのひとつ、『土の中の彼女の小さな犬』。
これだけは二度読んだ。
人間をめぐる繊細な観察眼をしきりに感じていると、突然、亡くなって埋めていた犬の墓を掘り起こすようなおぞましさを感じさせられる。
二つの位相の違う「春樹スタイル」を同時に具有させ、読み手の心の動揺を楽しもうとしているかのようだ。


中国行きのスロウ・ボート (中公文庫)

中国行きのスロウ・ボート (中公文庫)