北の街、白い雪と白子と
札幌滞在二日目は札幌の町中から離れて出歩いていたが、場所により視界が悪くなるように雪が吹雪いたかと思えば、わずかながらも青空が見え隠れしたりと、めまぐるしくかわる天候だった。
夕刻にホテルに戻って一休みをしたあと、そろそろ夕食に出かけようとして窓から外をみると、札幌には珍しくかなり水分の多い雪が吹き付けていた。
気候のよい時期なら、札幌駅近辺からすすきの付近までは散歩がてら十分な徒歩圏でも、ただでさえ足下はつるつる、こんな日は迷わず大きな通りにでてタクシーを拾うことにした。
大通りの交差点にでて、信号がかわるまでのわずかの間でも、体にどんどん雪が降り積もってくる。
しかし周囲を見渡せば、誰ひとり傘をさす人もいない。
「これが札幌スタイルかぁ。」
そう思いながら、それでも溶けかかった雪で頭は濡れるし、降ってくる雪を一人払い除けている姿はいかにも札幌へのお上りさん。
さて、二晩目の夕食は「ふぐ」をいただいた。
『煮凝り』
身と皮の間のゼラチンでとろけるような煮凝り。
出汁もよくきいていて、できるものなら毎晩少しずついただきたいと思ってしまう。
『ひれ酒』
ふぐをいただいて、このお酒を飲まないわけにはいかない。
火をつけて煮切ろうとすると、大きなこんがり炙られたひれが、器に収まりきれずに飛び出した。
香ばしい香り、アルコール類をこうして楽しむのは日本人だけだろうかと思う。
『お造り(てっさ)』
皮と一緒に綺麗に盛りつけられたお造り。
最後にいただいたのはいつのことだったろう?
そう思いながらも、箸はさっさとお造りに向かっていた。
『焼き白子』
出てきたとき、一瞬、何かのデザートか焼き菓子かと思ってしまうような、白子の焼き物。
軽く塩がふられている。
匙をいれると、中からは湯気がたつほど熱々にとろけた、クリームのような白子があらわれる。
すぐ口に運びたいのをじっと我慢して、一吹きしてから口にいれても、なお熱い。
『白子酒』
ひれ酒は何度も飲んでいても、この『白子酒』というものはいままで一度も飲んだことがなかった。
それよりも、どんなものか、どんな風に出てくるのかすら知らなかった。
器はひれ酒と同じ、そして表面には真っ白い泡立ったたクリームが浮いている。
ちょうどカフェラテやカプチーノが出てきたようだ。
顔を近づけると、なんともいえない良い香りがする。
泡の部分に口をつけてみれば、これはもう....言葉を失ってしまう美味。
焼き白子のまったりとした風味も良いが、このお酒に溶けた芳香もすばらしい。
そして一口飲めば、日本酒とともに口のすみずみまで広がってくる。
『唐揚げ』
ふぐの身をからりと揚げたもの。
色合いよくあがっているのをみて、箸をだし、一かじりして思わず、アチチ・・・。
薄地の衣の下には熱いジューシーな身と油があった。
ここで慌てて舌を火傷しては、他のお料理を楽しめなくなってしまうので、落ち着くまでひたすら我慢。
『焼きふぐ』
こちらは身を照り焼き風にしたもの。
お造りや鍋で食べるふぐとは別の魚のような、ぷりっとした弾力があって、これはおかずとしてご飯の上に載せていただいても美味しいかと思う。
『白子鍋』
ちょっと席をはずして戻ってきたら、最後の鍋が用意されていた。
もうおなかいっぱいで....といいつつ、コンロにかかる鍋をみれば、適量の野菜に豆腐、そしてふぐの中骨付近が入っていて、とても良い出汁がでている。
具をあらかた食べてから、別に用意されていた、これまた白子をいれて、2〜3分。
すうっと火が通ったところをポン酢と薬味でいただいた。
同じ白子でも焼き白子がカスタードクリームなら、こちらは生クリームのよう。
つるつるっと喉ごしまでよく、消えていってしまう白子が惜しいほど。
もうこれ以上無理と、さらにいいつつも、出汁をみては雑炊を頼まないわけにはいかない。
量を少なめにと頼んで、出てきた雑炊を結局は完食してしまった。
とにかく今回は『白子酒』と『白子の鍋』が圧巻だった。
そして、不安が残った。
もう『白子酒』と『白子の鍋』のないふぐ料理は食べられなくなってしまったのではないだろうか。
これからいったいどいうしたら良いのだろう?!