『アイーダ』は愛ーだ!


せっかく予約してチケットを買っていたのに「急な都合ができて、見に行くことができなくなったので、かわりにどうぞ」という方からの温かいお言葉に甘えて、劇団四季の『アイーダ』18時30分からの公演を見に行かせていただいた。



実は汐留にはちょくちょく足を運んでいても、この四季劇場「海」も四季の「アイーダ」自体も初めてだった。
場内は想像していたよりコンパクトにまとまっていたが、舞台の奥行きは意外に深く、たしかに次々と移り変わるシーンの巧みな切り替えには必須なのだと思った。
週の半ば、しかも夜の公演とはいえ、18時30分の開演に仕事を終えて間に合わせるのはよほど近くでないと至難の業にちがいない。
それでも、1階席も2階席も前方半分はびっしりと埋まっていた。
席は6列目で、舞台からほど近く。
この上演をみる人はそれぞれの思惑があり、席を選ぶのだろうが、今回はとにかく役者の顔、表情までしっかりと見えてしまう席だった。



上演は前半、後半と別れ、終わったのが21時20分前後だったと思うので、時間20分の休憩時間をのぞいてもかなりの長時間。
前半は大道具、照明、衣装、そして舞台の移り変わりと、どうしてもついついこういった演出面ばかりが気になり、ストーリーは気にしていなかったが、後半はそういったことも忘れてすっかり釘付けになってしまった。


ヴェルディ作のもともとのオペラ『アイーダ』のあらすじはだいたい知っていたものの、「美女と野獣」、「ライオンキング」につぐディズニーミュージカルの第3弾として、どのような脚本となっているかは興味あるところだったし、オペラでは有名な凱旋行進曲などがあるが、このミュージカルでの曲はエルトン・ジョンによるものがあるということが一層楽しみだった。
大枠のあらすじとしては、敵国どうしの男女の悲恋の物語で違いないが、物語としてのウエイトの置き方が決定的に違ったようだ。



博物館の展示室の一室、そこに置かれた数々の展示品の中の1つ、中に何があるのかもわからない、大きな箱の前でなんとはなく挙動の不思議な男女がいる。
そこからミュージカルは始まる。
そしてまた別の展示品と思われたものが実はメインキャストの1人であり、展示台から降りてこれからの物語の導入を歌い上げていく。
この不思議な始まりは、すべて最後に結びつき、重く終わってしまいそうな物語に、希望やほっとした安堵感をいだかせるあたりはとても見事だ。


敵対する国の男女の悲恋といってしまえば、それは国を家に置き換えればロミオとジュリエットのようでもある。しかし、そしてそこに加わるもう一人との、さらに奴隷と王女、王女の婚約者という、複雑な三角関係が絡み、簡単には説明のつかない男女の愛を観るものに印象つけていく。
この受け取り方は観る者の状態によって、さまざまに違いない。
だからこそ、愛の歓びを知り、愛の儚さに傷つき、愛の深さに苦悩し、そして再び愛の強さを信じたい、そう思う大人のためのミュージカルだ。
あらすじは分かっていても、最後には密かに涙が落ちてしまう。




ちなみに本日の出演者。
熱心なファンの方は何度も、何十回も同じ公演を異なったキャスティングでみたりしているそうで、単にミュージカル全体の感想というより、誰誰のラダメスはどうだとか、誰誰のアムネリスが最高というような声で、それはほんとうにすごいことだと思う。
初めてアイーダを観たので、比較のしようもないが、直感的な感じとしてはアイーダの配役の歌は素晴らしかったが、歌でない台詞のとき、滑舌があまりよくないようで言葉が聞き取りにくかった。
またゾーザーは配役が云々ではなく、ラダメスの父親という状況にしては軽すぎる台詞や物言いだったのではないかと思う。




アイーダ」は今年の9月5日に千秋楽を迎えてしまうそうだ。
アイーダ」の「愛」が気になったら、早い機会に「海」を訪れるとよい。


電通四季劇場「海」


〒105-0021 東京都港区東新橋1−8−2
http://www.shiki.gr.jp/theatres/umi/



より大きな地図で hatena diary用 を表示