「国宝源氏物語絵巻」を見に行く


東急大井町線上野毛」駅からほんのわずか、閑静な住宅地の中に「五島美術館」がある。
この美術館は本年11月28日をもって改修工事となるために、再来年2012年の秋まで長期休館となってしまうのだが、最後をかざる開館五十周年記念特別展として「国宝源氏物語絵巻」が行われていたので、見に行ってきた。
長期休館前、そしてわずか25日間という短い期間での、貴重な収蔵品展示とあって、事前の情報では23日の祝日には3時間待ちという列ができたという。
せめて最終日の週末をさけ、平日の日中にと思い、最寄り駅の上野毛駅に降りたところ、すでに「ただいま観覧までに1時間30分待ち」という看板があった。


最悪は夕刻にまた出直そうという覚悟の上で美術館に向かって歩いていく。
とても混雑など感じないような静かな道をいけば、美術館の門前でも「ただいま観覧までに1時間半待ち」となっていた。



チケット売り場の脇にはロープで区切って長蛇をつくることができる場所がもうけられていたが、チケットは並ぶこともなくすぐ購入でき、すぐ館内に。
館内に入ってからは、使用していない展示室に源氏物語の登場人物の顔を拡大したパネルなどが架けられて、並ぶ間にも退屈をしないようになっていた。
最終的には混雑具合をみながら十数人ずつ区切って展示室へと誘導しているのだが、蛇行する列の最後の方で、疲れてしまったという声がでるまさにその場所に、椅子が並べられて少しの間休息をとることができる仕組みだった。
さすがに混雑時に慣れていて、少しでも快く並べる工夫がされていた。



(展示室入室待ちの列の脇のディスプレイ)


絵巻物は五島美術館の所蔵する「鈴虫」の2場面と「夕霧」、「御法」のあわせて三帖分に、愛知の徳川美術館が所蔵する帖などもあわせた内容で、物語本文、そして絵の部分とそれぞれの帖ごとに展示されていた。
特に絵に関しては現物の絵巻物に対応する、彩色を施した復元模写も並べて展示されていたので、かすれて見えない部分や変色している部分についても、見比べながら当時の絵巻物の有り様を偲ぶことができた。


作品自体、絵巻物のために小さく、混雑していても順にならんで前の動くスピードにあわせつつゆっくり見ていかないと、絵画のように人垣の背後から見るという訳にはいかない。
結局、1つの展示室内にあったすべての展示を見るのに、80分くらいかかったかと思う。
単に詞書と絵を見るということでも楽しめるが、各帖の物語の内容を知っていると、さらに絵は登場人物の表情とともにいろいろな憶測がうかび、興味深くなる。
着衣の文様や種類で、当時の身分や役柄が分かるだろうが、それ以外はみな似たようなひき目かぎ鼻。
それでも苦悩、嫉妬や安堵など複雑な心情が見えてきそうだ。


源氏物語」が紫式部によって著されたのが11世紀の平安時代で、この絵巻物はそれから約150年後、12世紀に描かれたものだそうだ。
この現存する最古の絵巻物に約9世紀もの間、残された彩色の鮮やかさ、また、かな文字でしたためられた文を見るにつけ、それを受け止め朽ちることもなく残っている和紙の素晴らしさには驚かずにいられない。
素人目にも、金箔・銀箔や、草や雲を著すような繊維、砂などが和紙にデコレーションされ、それ自体が絢爛な用紙であったのではないかと想像させられる。
専門家がみれば変色・退色していても、この紙がどれだけ整ったものだったか分かるのだろう。
しかし、残念ながら図録図書には用紙自体のことは触れられていない。



(購入した図録集「国宝源氏物語絵巻」の詞書のごく一部)



さて、一通りの絵巻をみてから、庭に出て振り返ると、この建物は和風建築というより、平安の世の寝殿ではないかと思うようなたたずまいで、後に調べたところ、なるほど吉田五十八の設計によるものだった。




ひとやま分を庭園にしたような広い敷地の中には、茶室と池、そして沢山の種類の灯籠、石仏が配置されていた。
実は隣接する建物は五島昇とう表札のある邸宅で、この美術館も庭園も、五島氏のお屋敷の一角にお邪魔させていただいた、という感じだ。






多摩川に向かって開ける視界の間にはもしかしたら富士山が良くみえていたのではないか。
今では高層ビルのミスマッチな景色があるが、これもまた現在としては一興なのかもしれない。
ちなみにこの目前の多摩川河川敷では夏に花火大会の花火打上が行われる。






『五島美術館』
http://www.gotoh-museum.or.jp/


〒158-8510 東京都世田谷区上野毛3-9-25
03-5777-8600(ハローダイヤル)
(現在改修工事のため、休館中)

http://goo.gl/maps/nESM