深夜雑感


秋祭りもとうに終わったというのに暑さを残す昼。
だが、さすがに夜は気温も下がり、
開けはなった窓から風が勢いよく入り込んでくる。
それは部屋の中を軽く一巡して、そして北の窓から抜けていく。
それを一度掴んでみたいと思い手を掲げるが、
手の周りも軽く一巡し、同じように北の窓から抜けていく。


目をつぶると風が見える。
風にのってやってくる香りもわかる。
遠くどこかでかいだ、頭の奥底に残っている記憶の香りと同じ。
やや朽ちかけた木が静かに燃える香り。


この風はもしかしたら、はるか数十年前、
私が香りを脳裏に刻んだ時に吹いていた、その風ではないかと思う。
世界じゅうの家々の中を一巡し、
そして誰の手にも掴みとられることなく、
今夜また私の前に舞い戻ってきた風。




何をどうしていいか判らないほど、
床にめり込んでしまうのではないかと思うほど、
重たいこころうちを最後に撫でて、
風は北の窓から抜けていく。