『羊肉串専門店 和龍園』の誘惑のタネ
昨晩は御目出度い披露宴の席のあと、そのまま帰ってしまうわけもなく、同じテーブル・近くのテーブルの数人で、二次会へと出かけました。
とはいっても9月15日敬老の日で祝日、しかも月曜日。
あいている店はあまり多くないはずで、雨も降りだし、アテもなく人形町界隈をうろうろして探すことは無理と、結局向かったのは浅草でした。
六区に近い浅草ビューホテル、その麓というような路地のかたわらに、電飾看板がともった店。
前日にM知さんが出かけて食べていた「羊肉ロース串焼き」。
あの写真の肉の色をみただけで、味の方向性が頭の中に浮かんできていたので、もう願ってもないチャンスの二次会です。
ただ、惜しむらくは晩餐をいただいたあとだったので、みなそこそこ、おなかがいっぱいになっていたことでした。
お目当ての「羊肉ロース串焼き」を頼むと、ささっとグリルの上に不思議な四角い枠がセットされ、小さくまとめて刺さっている肉串が運ばれ、
あれよあれよという間に串焼きの準備が完了。
揚げピーナツにキムチの皿が各テーブルの上に出され、串焼きのための香辛料の小皿も各自1つづつ出されます。
白い小皿の上に載っているのは、パプリカ、クミン、そしてトウガラシ。
もともと肉料理のくさみを消す香辛料としてクミンは良く使われていますが、挽かずにタネ(シード)のまま出てくるのは珍しいかもしれません。
お供はマッコリ。
枠の上に並べて焼き上がりをまつこと、数分。
ひどく待つこともなく、かといって箸や手が離せないほど短時間で焼ける訳でもなく、微妙なこの数分はじわじわと焼色のついてくる肉串をみているだけで、あっという間にすぎます。
そして立ち上る香辛料の焦げた香り、とくにクミンはどうしようもない誘惑の香り。
じゅわじゅわ...っと脂でカメラのピントが合わないほどですが、なぜか脂の強さを感じない、
しかも羊肉とは思えないくさみの無さ、そして柔らかい肉....
小皿の香辛料をさっとまぜ、そこに串先の肉にちょちょっとつけて口へ運べば、あらかじめ肉に絡まった複雑な香辛料と、つけたばかりの香辛料、二重の効果で食べることをやめられなくなります。
とても晩餐をいただいた後とは思えない、それでも箸や手は動きます。
もう1つ出てきたハナにツンとくる酸っぱい香りの揚げもの。
『鍋包肉』
見た目と香りから、酢豚や魚の甘酢あんかけを想像して口に入れると、10人中8人はむせかえる、すさまじい酢の香り。
肉の塊ではなく薄バラ肉に、厚い衣をつけて揚げ、そこに酸っぱい甘酢をかけてあります。
どことなく紙カツを彷彿する料理、肉を食べるというより、むしろ肉風味で衣を食べるといった方が合っているのかもしれません。
となると、これは大阪でいう「こなもん」でしょうか?!
羊肉串焼き、これは分類では韓国料理のようですが、『延辺(えんぺん)料理』といい、実は中国吉林省の北朝鮮との国境近く、延辺朝鮮自治州の料理だそうです。
位置的にいえば、中国料理、朝鮮料理の混合なのでしょうが、そこに上の写真にもあったクミンが加わることで、モンゴル系や遠くはインド系(例えればシーク・カバーブ)、トルコ系(例えれば、シシカバブ)の特徴も見られます。
文化の融合はさまざまな形で行われてきていますが、食に関する文化の融合はおそらく美術品や芸術品のそれとは違い、毎日人が生きることのために食することの繰り返しから、膨大な時間をかけて生まれてきたものでしょう。
この複雑な味わいはまた食べにいこう、そんな誘惑のタネから生まれているようです。
(追記)
クミン(「孜然」と書くらしい)は新疆ウイグル自治区の特産品だそうです。
そのクミンを料理に多用するとうことは、やはりこの延辺料理、シルクロードを渡ってここにたどり着いたものなのでしょうね。
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