北の街、夜の至福(その1)


この時期が札幌では一番寒い時期だという。
さらに一週間前には雪祭りもおわっていて、観光客もめっきり減って、街中は静かになってしまうそうだ。
駅からのったタクシーの運転手は「もうあとは暖かくなるまで、じっとしてるんです。」そう言って首をすくめていた。


そうとはいっても羽田から新千歳への便は真昼間の便にもかかわらず、そこそこ一杯で、特に日本の隣国からの観光客が目立った。
世界的な不況のなか、一人勝ちしている隣国からの若い観光客が多かった。
フライト中は席から席へと、カメラをもって巡り、着陸前にシートベルト着用サインが出たのに、トイレへ立ってCAに制止されたりで見ている方がハラハラしてしまった。
そのはしゃぎようはかつて、そう20年くらい前に日本人がこぞって海外に出かけたときの様子そのもののようだ。
寒い時期、さらに北に向かうのはハイな気持ちになるのかもしれない。


さて、どこの国からであろうと、また観光客であれ出張者であれ、この時期にいく楽しみは冬ならではの美味しい食べ物につきるだろう。
夜にいただいた北の至福を思い出すだけで、再び雪の中、あの街を歩きたくなる。


晩にいただいた一献の写真、空腹時には見ないほうが良いかもしれない。




『金目鯛のにこごり』


にこごりということで、どういう形で出てくるのだろう、ほぐした身がはいり、薄く広げて固めたものを四角くカットして出てくるのかと思えば、一匹の半身分がどんとでてきて、圧倒される。
頭の骨の間についた身まで惜しく、席をたって誰もいなくなった間に、ここぞとばかり骨ごとしゃぶって綺麗にいただいてしまうのが素敵。



根魚の旨みが溶け込んだゼリー状のにこごりは、口の中ですっと溶けてスープのよう。




『鯨ベーコン』


懐かしの鯨ベーコンなのだが、あの乾き気味の薄いベーコンとはちょっと違う。
たっぷりの脂と厚い身を千切りにしてピリ辛のソースで和えてある。
これだけでもちびりちびりとお酒が飲めてしまいそう。




『海水うに』


ウニは決して嫌いではないが自分から頼んで食べたりしない。
それはあの型崩れを防ぐためのミョウバン処理してあるえぐみ(苦み?)が好きでないからで、生のままのウニといったら、これはもう独り占めしていただきたい。
小さいガラスの器に盛られ、匙の添えられた生の海水ウニ。
時間がたつと、アイスクリームのように溶けてしまうのではないかと、ついつい日本酒の杯と交代に匙が進む。
塩味は強すぎず、自然の塩分にほろっとした甘さがひきたつ。




『焼き油揚げ』


うっかりどこの油揚げか記憶するのを忘れてしまったが、たぶん銘柄のついた豆腐屋の油揚げだったと思う。
こんがりと炙った油揚げはあっさりしていて、濃厚な魚料理の間にほっと一息。






(「北の街、夜の至福(その2)」 につづく)