『使いみちのない風景』読了


この本を手にとって開き、それがたまたま写真ページで海の景色が出たときに、「あ、これは...!?」と思った。
以前、読んでいた村上春樹のエッセー集『波の絵、波の話』の写真を見たときと同じような気持ちになったからだ。


案の定、写真は「稲越功一」によるものだった。
本の体裁は『波の絵、波の話』とは全く違って、文庫本サイズ。村上春樹の短いエッセーとともに、まるでそのために切り取られたような写真が収まっている。
本のタイトルは『使いみちのない風景』だが、実に使い道ある風景ばかりだ。
読みながら自分で今まで撮ってきた写真のことを思い出した。たしかに「使い道のない風景」として、何につかうこともなく、何に載せることもなく、でも自分の中では伝えたい何かをもつ写真がすぐに何枚か思い浮かんだ。


景色--生活の中の1シーンをみて、人は何か思う。それは多くの人に共通して共感を得られるものもあるが、中にはたった1人のある特定の人にしか意味をなさないものであったりもする。
村上春樹にとって『使いみちのない風景』といっている風景は写真をみている限り、どちらかといえば後者的な意味合いが強くみえるのだが、実はエッセイを読みながら写真を眺めていると、白いページの余白が室内の壁となり、あたかも外の景色を眺めているような感覚になったり、まるで目前に現れた景色であったりと、前後上下左右に連なる小説やさらなるエッセーの始まりのようではないかと思えてくる。




使いみちのない風景 (中公文庫)

使いみちのない風景 (中公文庫)