変わりゆくもの 変わらぬもの 向島『岩手屋』から「いわて屋」へ
富田勲作曲のあの懐かしい曲に、坂田美子が作詞し自ら歌っている「新日本紀行ふたたび」*1のテーマ曲。
その中に出てくる一節、
「変わりゆくもの 変わらぬもの」
これは街の姿であったり、人の心であったりするが、もっとミクロな世界にも見あたることだ。
「変わりゆくもの 変わらぬもの」がフラクタルのように自己相似の形をとって存在する。一軒の店から、その店々があつまる界隈を、そしてその界隈があつまる地域でも。
以前はこの店の周囲に、強力な結界がはりめぐされていた。
酒場慣れした人間でも、ドアに手をかけるのをちょっと戸惑うほどのオーラが漂う。
それが、この店は今年全面立て替えされて、あらたに「いわて屋」となった。
「大衆酒場」の提灯は残したものの、構えは明るい居酒屋、入り口前のメニュー掲示、そしてひらがなの店名は客層の幅を広げている。
なにより、自動ドアとなって、ドアに手をかけずともあいてしまうので、躊躇する時間もない。
聞けばランチ営業もしているという。
店に入れば、以前の「岩手屋」のカウンターにいた常連客ばかりに違いないのだが、以前にはなかったテーブル席には、初老夫婦が夕食を兼ねた一杯を飲みにきているという、以前は目にしたことのない光景。
かつての岩手屋では、「目玉焼き」が肴の定番メニューだった。
いろいろ変わってしまった中、まだその「目玉焼き」は残っているだろうか?
実は改装後のこの店に行くまで、それが一番心配だった。
おそるおそるテーブルにあったメニューを広げてみる。
(以前の「岩手屋」ではメニューなど存在しなかった)
あった!
「いわて屋の目玉焼き」
そして頼んでみる。
岩手屋の時の目玉焼きは、こんな具合だった。
千切りキャベツの上に載せられた2つ目の目玉焼きをみて、かつての「岩手屋」の店先が一瞬重なった。
「変わりゆくもの」の中に「変わらぬもの」を見つけたとき、「良かった」という気持ちより、持ち駒を1つ増やした時のような、そんな安堵を覚えたりもする。